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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)512号 判決 1961年8月05日

事実

本件判決の後記判示部分は、左記の、控訴人主張の(3)の抗弁に対する判断である。

控訴人主張の(3)の抗弁

「仮に、中尾がB家屋を控訴人に売却した後、その旨の登記未了の間に更に被控訴人に対しこれを売却し、その旨の登記がなされたため、控訴人の右買受による所有権取得が被控訴人に対抗し得ないものであるとするも、控訴人は、既に登記以前たる昭和三四年八月三日中尾から右家屋を賃借し、引渡を受けたから、その賃借権をもつて、被控訴人に対抗できる。すなわち、右家屋につき、中尾から被控訴人に対し同年七月二〇日に売買予約に因る所有権移転請求権保全仮登記がなされ、同年八月四日に右仮登記に基き売買の本登記がなされているが、控訴人は、前示のように、同月三日に右家屋を中尾から賃借し、引渡を受けた。ところで、仮登記の効力は登記簿上の対抗力を保全するにとどまり、物権変動の効力は、あくまでも本登記のときに生ずるものであるから、本登記前に賃借権を取得し賃借物件の引渡を受けた控訴人は、これをもつて被控訴人に対抗し得る筋合である。」

理由

控訴人がB家屋及びA宅地中の被控訴人主張の地域をそれぞれ占有し、右地域上に被控訴人主張のバラツク二棟を所有していることは、当事者間に争がない。

(省略)

次に控訴人主張の前記(3)の抗弁について判断する。

仮登記の効力に関する不動産登記法第七条第二項の趣旨については、見解が分れているが、当裁判所は、次のとおり解する。

不動産物権変動の対抗力は、本登記の時に生ずるものであつて、右規定は、本登記の対抗力を仮登記の時に遡及せしめることを定めたものではなく、仮登記が本登記のために、ただ順位保全の効力を有するにとどまるものである旨を定めたにすぎない。従つて、不動産物権変動の対抗力は、本登記の時から生じ、仮登記の時まで遡及するものではなく、また物権変動の時まで遡及するものでもない。しかし、仮登記の後に本登記がなされると、その本登記の順位を決定する基準はさかのぼつて仮登記の時とするから、仮登記の時以後本登記の時までに本登記の内容実現とていしよくするような中間処分は、そのていしよくする範囲において効力を失い、又は後順位になる。右説明は、不動産登記法第二条第一号の場合と同条第二号の場合とを通じ同一である。以上のように解するのであつて、これと異なる控訴人の見解は、採用できない。

今本件について考えるに、仮に、控訴人がその主張のように、昭和三四年八月三日訴外中尾清一郎からB家屋を賃借し、引渡を受けたとするも、前認定のように、右家屋につき右中尾から被控訴人に対し同年七月二〇日に売買予約に因る所有権移転請求権保全仮登記がなされ、同年八月四日右仮登記に基き売買の本登記がなされているから、前説明により、控訴人の賃借権は、右本登記以後においてはその効力を失うに至つたものであるというべきである。そうすると、右賃借権が有効に存続することを前提とする控訴人の右抗弁もまた理由がなく、採用できない。

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